『後悔』

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涙を流しながら 車を運転して 自宅へと帰っていく 空は黒く 雨脚が激しくなってきて ワイパーの速度を上げた きっと、晴れていても ワイパーを動かさないと 隼人の視界は ボケていただろう それ程に 大粒の雨が 隼人の目から 激しく降っていた。 それでも 早く家に帰りたかった 直ぐにでも 家に帰りたかった 車のスピードをあげ 降りしきる雨のなか 視界がボヤけたまま 車を走らせていた 微かに携帯が鳴るのを 期待もしながら 家に戻ると いつもと同じ空気で いつもの生活が 待ち受けてくれた。 食器の洗い上げをし 米を洗って 炊飯器にセットして 風呂場へ向かい 風呂を洗い そして炊飯器を 早炊きにして 今度は洗濯物をよせ 一人静かに それをたたんでいた。 何もしたくない でも… それは苦しい だから… 体を動かす そうすれば 多少なりとも 気が紛れてくれた。 いつもの生活に戻った でも、それは 大切な物を 一つ失ったんだ 大切な者を 一人失ったんだ 洗濯物をたたみ終えると 二階から一階に降り ゲージから身を乗り出し 「早く出せ、早く出せよ」 無邪気に尻尾を振る 愛犬のチビをゲージから 解き放つと 隼人の顔を ひとしきり舐め 涎でベチョベチョにして いつもの様に 去っていった。 『お前のキスより… 麻衣のキスが欲しい』 体の力が抜け その場に崩れ落ち 力無く呟くと 堪えていた涙が 激しく噴き出した その隼人の姿を 遠くから見つめていた チビがゆっくりと 隼人の近くへ歩み寄り 「どうしたの?」 そう、首を傾げながら 何も言わずに 隼人の胡座をかいた 脚の上に座り込み 隼人の顔を見上げていた。 「どこか痛いの?」 隼人の顎を ペロペロと数回舐め まるでチビが 隼人を看病してくれる そんな行動をとった 隼人はチビの メタボなお腹をさすり 溢れ出す涙を 拭おうともしなかった 見ているのはチビだけ 「僕は誰にも しゃべらないから… 思いっきり泣きなよ」 チビの目が 隼人にそう告げていた。
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