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南米、コロンビア。
「こちら《トナティウ》、エリアα(アルファ)クリア」
血煙と硝煙の舞い踊る部屋の中、黒ずくめの人物は耳元から伸びる通信器に短く呟いた。
『《ガズラー》了解』
『《フギン》了解、そのまま全力前進』
「アイアイ」
聞こえてきた声にやはり短く答え、イングラムM11片手に更に奥へ走る。
その最中に何かを聞いた《トナティウ》は、加速しながら声を張り上げた。
「《フギン》、何かの装置が動いた!ヤバい気がする急いでくれ!」
ほどなく、通信機から陽気な声が返ってきた。その声は、明らかに笑いを含んでいる。
『驚くべき直感力と聴力だな《トナティウ》。今総量500キロのC4のケツに火が点いたところだ。こっちの計算では、あと15分ほどでお前さん達ごとそこはドッカンって状況だぜ?』
軽々しい口調で告げられた衝撃的な発言に《トナティウ》が怒鳴るよりも早く、落ち着き払った声が通信網に入り込んできた。
『それを宥めるのがお前の任務だろう《フギン》』
《フギン》は笑ってそれに答える。今度は《トナティウ》が口を開いた。
「ボス、今どこだ?こっちは……っらぁ!っと、エリアδ(デルタ)を15メートル敵勢力…10、制圧完了」
銃声と断末魔の合間に聞こえてくる《トナティウ》の声に、ボスと呼ばれた人物はのそりとその姿を現した。
「お前の目の前さ」
「……わお、お早いお着きで」
《トナティウ》は手にしていたイングラムを肩に提げて口元を軽く持ち上げた。
「お前のように手際よくはいかなかったがね」
そう答えて空になったマガジンを放り投げる。再び《フギン》の声が入ってきた。
『こちら《フギン》、特大花火を止めるのは不可能、直ちにこの場を撤退』
「どういうことだ」
『解除にはコードの他に生体認証が必要です。しかし認証されてるのはごく僅かでその僅かさんをすぐに調達するのは物理的にできないからですよ、《イージス》』
「×××××!」
《トナティウ》の罵声を無視して《イージス》は微かに怒りの籠もった声を返す。
「……わかった。《フギン》は撤退準備。《ガズラー》」
『こちらも撤退を開始、10分でRP-2に帰投する』
指示を先回りして答える寡黙で優秀な副官を思い出して苦笑しながら、《イージス》は《トナティウ》を見た。
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