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その日はとてもいい天気だった。
そして風が強かった。
ちょうど二人で初めて桜を見た日のように──。
私とかなうは、尼寺の駐車場で待ち合わせをした。
私が駐車場に着くと、かなうはもう車の外に出て待っていた。
「おはよう……」
「おはよう」
かなうの眩しい笑顔に、胸がきゅっと鳴いた。
「やっぱりまだ八重桜は咲いてないんだね」
かなうは、まだ蕾も膨らんでいない八重桜の木を見上げた。
「そうだね。
でもね、ほら、こっちにうすずみ桜っていう桜が咲いてるの」
私は駐車場の奥を指差した。
「へぇ……。じゃあちょっと歩いてみようか」
「うん……」
かなうが左手を差し出す。
私は笑顔でその手をとった。
長方形の敷地に等間隔に20本ほど植えられている桜は、背が低く、横に枝葉が広がっていて、手が届くところにほんのり淡いピンク色の花をつけていた。
「写真撮ろう」
かなうは、あの日のように携帯で桜の花を撮った。
神妙な顔で──一枚だけ。
私も一枚だけ、撮った。
「一年前は手をつなぐのも恥ずかしかったんだよね」
桜の下を歩きながら、かなうが懐かしそうに言った。
「うん……」
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