†別れ†

3/6
前へ
/157ページ
次へ
  その日はとてもいい天気だった。 そして風が強かった。 ちょうど二人で初めて桜を見た日のように──。 私とかなうは、尼寺の駐車場で待ち合わせをした。 私が駐車場に着くと、かなうはもう車の外に出て待っていた。 「おはよう……」 「おはよう」 かなうの眩しい笑顔に、胸がきゅっと鳴いた。 「やっぱりまだ八重桜は咲いてないんだね」 かなうは、まだ蕾も膨らんでいない八重桜の木を見上げた。 「そうだね。 でもね、ほら、こっちにうすずみ桜っていう桜が咲いてるの」 私は駐車場の奥を指差した。 「へぇ……。じゃあちょっと歩いてみようか」 「うん……」 かなうが左手を差し出す。 私は笑顔でその手をとった。 長方形の敷地に等間隔に20本ほど植えられている桜は、背が低く、横に枝葉が広がっていて、手が届くところにほんのり淡いピンク色の花をつけていた。 「写真撮ろう」 かなうは、あの日のように携帯で桜の花を撮った。 神妙な顔で──一枚だけ。 私も一枚だけ、撮った。 「一年前は手をつなぐのも恥ずかしかったんだよね」 桜の下を歩きながら、かなうが懐かしそうに言った。 「うん……」  
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

364人が本棚に入れています
本棚に追加