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私の嗚咽が収まると、かなうはゆっくりと身体を離し、左手を上げて指輪を私に見せた。
「いつでも一緒だ……」
「うん」
私も左手を示す。
車に乗り込んで、かなうは「じゃあ……」と手を上げた。
「気をつけてね」
私は精一杯の笑顔で手を振る。
砂利を鳴らして車の方向を変えると、かなうは開けたドアからこぶしを突き出した。
そして、笑顔で何度もこぶしを突き上げ、勢い良くアクセルを踏み込んだ。
──離れていても一緒に頑張ろう。
そう言ったんだね。
私も車に乗り込んだ。
あの始まりの日、私はすぐに車を走らせることができなかった。
不安で、不安で。
でも今日は──ためらうことなくアクセルを踏み込む。
涙は流れるままにして。
ハンドルに乗せた左手の指輪に目をやり、ルームミラーを覗き込む。
涙で少し歪んだ鏡に、うすずみ桜が遠く、儚く映っていた。
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