あの日の桜の色は

†始まりは†

　　
俺の本名は杉下かなう。
願いが叶うの『かなう』。
そのままひらがなだ。
ちなみに妹は『のぞみ』。

どうせ載らないだろうと決めつけてたのに、この状況は運がよかったと喜ぶべきなのか？
それとも──。

別に出会い系に本気の出会いなんか求めてない。

今回だって、将が面白がって掲載依頼したようなもんだし。

まぁ、あわよくば『気が合うコが見つかってデートでもできたら楽しいだろうな』くらいの気持ちはあった。それは認める。

実は俺、齢(よわい)23にして恋愛経験がほとんどない。

高一のとき告白されて付き合ったコがいたけど、ほんの数か月で自然消滅。

以来、彼女いない歴かれこれ７年。
だけど７年間彼女がいないからといって、べつに切羽詰まってるわけでもないんだよな。

気がつけば将に乗せられて出会い系デビューのチャンスを得たわけだが、さて……。

あらためてメールに目を落とす。

──ミホです、か。
Ａｙｕ似ね。
うーん。歌は嫌いじゃないけど顔はなぁ。

返事はとりあえず保留っと。

「夕飯、どうすっかな……」

独り言をぼそっとつぶやいてベッドから降りた拍子に、ずり落ちたジャージの裾を踏んづけて転びそうになった。

「いてっ──んだよっ！」

つい、毒づいてしまう。
俺ってけっこう口が悪い。
まぁ、平和主義者だからこの程度の可愛いもんだけど。