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お茶を飲むということは、口を開くということだ。
(危ない。危ない。後、少しで地獄へ墜ちるところだった。)
出された団子やお茶に手をつけない俺を見て、お婆さんは訪ねてきた。
「あんた...食べないのかい?」
俺は、黙ってこくんと頷く。
お婆さんは悲しそうな顔をした。
俺は胸が傷んだ。
(お婆さんは俺のことを思って団子やお茶を出してくれたのに、手をつけないなんて...今の喋ってはいけない状況を説明したいけど口を開けてはいけないし...)
困った俺を見てお婆さんは言った。
「あんた。‥ひょっとして、行く所があるんじゃないかい?」
「…」
(そうなんです。)
俺は無言のまま首を縦にふる。
「やっぱりね。あんたのその真剣そうな顔見て分かったよ。行くべき所があるならここで私が引き留めてちゃいけないね。さぁ。先へ行っておくれ。」
お婆さんにそう言われ俺は歩きだした。
「頑張るんだよ──。」
後ろからお婆さんの声がする。
俺は立ち止まりお婆さんに一礼してからまた歩きだした。
『ありがとう』と『がんばります』の意味を込めた一礼をして。
歩き初めてからカナリの時間が経ったはずだ。
俺は時計を見る。
時計の針は後少しで30分をさそうとしていた。
(もう半分過ぎたか...ヤバいな。急ごう。)
そう自分に言い聞かせてまた階段を昇って行く。
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