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気が付けば私は車の中にいた。
運転席には祖父。助手席には私。祖父の後ろの席には、今日17の誕生日を迎えた弟。
春なのに蒸し暑い。
本当に春なのかと問いたくなるくらいだ。初夏と言っても過言では無い気がする。とにかく暑い。
「どこか行きたい場所があるね?」
「別に……」
私はぼんやりと祖父を見つめた。視界の隅に、弟も入る。
奇妙な違和感があった。それが何なのか、私には分からない。
「あ」
小さく洩らしたのは、私。
「私、今年はまだ桜見てないんだ。じぃちゃん、桜が見たい」
うん、と祖父が頷いて、車は走り出す。──と、間髪入れず、私の目の前を風が凪いだ。
雪のように美しく。
ひらりひらりと舞い踊る。
花吹雪。
視界に入りきれない程の大木が、そこに静かに座っていた。可愛らしい花を咲かせて、私を魅了する。
「綺麗だね」
祖父はまた、うん、と頷く。
直後。
私は闇に落ちた。
ぼんやりとした思考のままゆっくりと目を開き、そして違和感の正体に気付く。
今日は4月24日。
17年前の今日、弟が生まれた。その約2週間後、祖父は亡くなった。
祖父が倒れたのは4月の中頃で、救急車で送られてから意識不明のままで退院する事はなかった。無論、弟が生まれた事など知る由も無い。
この2人が並んだ姿など、有り得ないのだ。
だから今のは、私の夢。だけど悪い夢では無い。
祖父は会いに来てくれた。
すれ違った弟と。
私に。
それを見届けたのは、散ったはずの桜の花。
~ fin ~
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