149人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
運命のチャイムが鳴った。
突然耳に響いてきたピンポーンと言う電子音。
特に何をするでも無く、一人暇を弄びながら部屋でメールを返していた俺は、その音に頭を持ち上げた。
隣の部屋に居るだろう揺華の気配を探ってみるが、動こうとする気配は感じらない。
俺は仕方ないとため息をつきながらそそくさと玄関へ向かった。
つい先程電話で母さんと行った会話を思い出しながらも、こんな時間帯に訪問してくる人物など母さん達しか思い当たらず、忘れ物でも取りに来たのかと思い、俺は無用心にもそのドアを開けてしまった。
しかし、ドアの先に人影はなく、辺りを見回してみるが端整な住宅街が続くだけだった。
「……?」
悪戯か何かかと眉を顰めながら、静かに玄関のドアを閉めると、突然俺の耳に聞き慣れない男の低く怪しげな声が響いてきた。
『今回はまたなかなかの上物デスね…』
「――――ッ!?」
突然の予期しない出来事に、俺は驚いて文字通り飛び上がった。
とっさに振り返ると目の前がいきなり暗闇に包まれる。
いや、正確には一部分だけ空間が裂け、そこから闇が侵食しているような状態だった。
「……は?」
俺は中に浮かぶその黒い固まりをただ呆然と見上げた。
『綺麗な顔の割に、なかなか可愛い反応をしますね』
クスクスという笑いの混じった声と共に、すっ…とそこにある暗闇から青白い腕が伸びて来て、俺はあまりの恐ろしさにその腕から逃げる様にずるずると後ろに後退する。
だが、その腕は止まること無く、ついにその声の主と思われる黒いマントを羽織った怪しげな男が、ゆっくりとその暗闇から姿を現した。
最初のコメントを投稿しよう!