わたしの日常

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下駄箱でローファーに履き替えると、わたしは人をかき分けて校門に向かって歩いた。 「美樹早いよー!」 真奈美はローファーをつっかけたまま、必死にわたしを追って来ている。 わたしなんかを追いかけて、一体何が楽しいのだろう。本当に、全く理解できない。 「真奈美!」 仕方なく立ち止まって真奈美を待っていると、何処からか真奈美を呼ぶ声がした。 「笹山じゃん」 笹山、とつい先ほど聞いた名前に反応して、真奈美の視線を追ってみる。 「あれね」 ほんの少し離れた場所で、真奈美と楽しそうに話している男の子。 スポーツ少年を絵に描いたような爽やかさだ。短く切りそろえられた黒髪で、校則違反をすることもなくきっちりと制服を着ている。 二人に目を向けていると、わたしが立ち止まっているのに気が付いた真奈美が笑顔で手招きをした。 従いたくはないけれど、帰宅する生徒たちの波の中、大声で名前を呼ばれてはたまらない。 「何?」 渋々、真奈美の元へ向かう。 「こいつが笹山!」 真奈美がニコニコしながら爽やかな奴、じゃなくて笹山を紹介してきた。 「どうも」 一応軽く頭は下げてみたけれど、笑顔は作らない。 不愛想だと思われたって、かまわなかった。 「あ、どうも!笹山です!」 笹山も慌てて頭を下げる。 こちらが冷たく接したのにも関わらず、気持ち悪いくらいに爽やかな笑顔だ。 ちくりと、わたしの中の良心が刺されるような痛みを覚える。 ……苦手だ。真っ直ぐで、純粋そうな笹山が。 同じ年齢だというのに、屈託なく笑う人が。 「この子が美樹! 可愛いでしょー?」 なぜか得意げになっている真奈美の肩を、軽く二、三叩く。 「ねえ、そろそろいい? 行かなきゃ」 「あ、そうだよね! じゃあ、笹山またねっ」 そう言ってわたしと一緒に歩きだそうとした真奈美を捕まえて、途中まで一緒いいかと笹山は言う。 「全然! 美樹は?」 「……好きにして」 「どーも!」 ちっとも好きにしてほしくなかったが、たった数メートルの距離を一緒にするくらいできつく当たるのもどうかと、顔も見ずに承諾する。 そんなわたしの態度を物ともせず、笹山は笑顔で真奈美の横に並んで歩きだした。
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