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「どこに行きたい?」
学校から離れてしばらくしたところで、圭介はこちらを見ずにそう尋ねてきた。
「うーん……制服着替えたいかな」
「え? 着替えるの?」
「だって制服だと落ち着かない」
「じゃあ、洋服でも買いに行こうか」
「そんな急に。お金持ってきてないから、無理」
そう言って少し膨れてみせる。
本当は、洋服を二、三買うくらいの金額は持っているけれど、財布を見せることもないだろうから、この嘘はばれないはずだ。
「洋服くらい買ってやるから、膨れるなよ」
そういって圭介は、顔をくしゃっとさせて笑った。
わたしは圭介のこの顔が、1番好き。
不覚にもドキッとしてしまうほどだ。
「いいよ、そんなの悪いし…自分で買うから」
そうやって断っても、気前のいい圭介の返しは予想できている。
「気にするなって。だいたい、俺が運転してるんだから、美樹に拒否権なんかありません」
はい、はい。
毎度どうも。これでまた、財布を開くことなく持ち物が増えた。
わたしがいつまでたっても髪を染めないのも、ナチュラルメイクなのも全部このため。
圭介はまさかわたしが色んな男と寝てるなんて、きっと想像もしないだろう。
寝た男に何か買わせて、わたしは身の回りの物を不自由なく手に入れる。
タダでやらせるんだから、服やご飯くらい、安いもんでしょ。
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