死の追憶

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その日は珍しく大雪が降り、日が沈んだ後でも月明かりに雪が反射しほんのりと明るい夜であった。 彼女は一瞬苦悶の表情を見せた後、そのまま寝台に倒れ込み動かなくなった。 人の死とはあっけない。 彼女の命もそれに漏れることはなかった。 そしてしばし時間がたって、異変に気づいた医師と看護婦が病室へ訪れ、連絡を受けた両親が駆けつけた頃……すでに彼女は骸となっていた。 やがてその骸から小さな光が出てきて彼女の身体の形に変化した。 「何があったの? 」 その燐光に包まれた彼女はうっすらと目を開け、呟いた。 そして身を起こしてあたりを見回す。 泣き崩れる両親。 沈痛な表情をした医師と看護婦。 そして……寝台に横たわる自分。 自分が二人いることを不思議に思いつつ、燐光を放つ、透きとおった両の腕を伸ばす。 彼女は目を閉じ動かないもう一人の頬をそっと包む。 僅かに侵入した自分の指が見えない壁に阻まれ止まる。 温度を感じない。 何かに拒まれたということ以外は何も感じることのない彼女の指先。 もう一人の彼女、つまり躯から手を放し、彼女は拳を握りしめ浮遊したまま蹲る。 そして実感した。 ――自分が死んだことを。
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