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「駄目だ」
あっさりと一蹴。
鉄の意志だよ、この人。
「言っただろう。お前達に提供出来るような話は無い」
真剣な目つきでそう諭すアリスさん。
「う……」
思わず何も言えなくなる。
言葉の意を汲み取った事もあるが、何よりその台詞が様になりすぎて不覚にも見とれてしまった事の方が大きい。
要するに、本当に勿体ない。
「だから、今日は運が良かったと思って諦めろ。今の時代、空き缶を拾うだけでも金になるし……ん?」
まあ、見た目は綺麗なお姉さんだから、心配されるのは悪い気はしない。
「ふむ、四人目が出たか。それで他には……何、五人目がほぼ同時にだと!?」
今回は、素直に従って帰るのもアリか、と思った矢先。
「分かった、早急に対応する。それに関するスペシャリストが皮肉にも此処にいるのでな」
こちらを一瞥の後、じゃあ切るぞと携帯を閉じたアリスさん。
こういう時に限って、不思議と第六巻が働く。
そして開口一番に言ったのは、
「喜べ、コウヤ。待望の依頼が出来たぞ」
一言一句、俺の予想と全く違わない台詞だった。
言葉とは裏腹に、呆れた表情を浮かべるアリスさん。
それはまるで、俺の不幸体質を哀れむかの様に見下した目線であった。
「……は?」
予想し得たとは言え、あまりの落差に一瞬戸惑う。
しかし、笑えない事態に突入した事に気付くのには、それほど時間を要さなかった。
「マジっすか?」
「マジだ。何、いきなり前線に連れて行く訳ではない。だから安心しろ」
先程までの哀れみの表情はどこへやら、嬉々として愛用の違法火器類の手入れを始めたアリスさん。
前言撤回。
この女性は清廉潔白な正義の人などではなく、大義名分を良い事に、堂々と世に蔓延る現代版ハンターなのだった。
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