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「結衣先輩駄目ですよ、そんな口を聞いては。……一応所長は上司なんですから」
「えー」
優しく微笑みかけ結衣を注意するその姿は、さながら悪い事をした子供を慰める母親のよう。
「一応、は余計だよね瑠璃花ちゃん?後、その間は何だ?」
只、その一言が余計だった。
「だって、本当に仕事無いじゃない。ルリちゃんはいつも暇なのに何してるの?」
「だからって、暇=ゲームOK、の方程式は成り立たないだろ、結衣?」
「まあ、確かに暇なんですが。仕事は自分で見つけるものですよ?私は今、事務所のサイトの運営・管理をしています」
パソコンの画面を見せる。
俺の抗議は全てスルーする方向らしい。
「…………」
多数の心の傷を負いながら、彼女が作ったというサイトのページを見る。
そこには、立派な事務所説明のサイトが運営していた。
「ん?」
ふと、画面に疑問を発見する。
「なあ、瑠璃花ちゃん?」
「なんですか、所長?」
「ここの所長コメントの欄だが……書いた記憶が無いぞ?」
「あれ、私たち、マンション経営の相談なんか、受けたことあったっけ?」
虚偽の事象に俺達は、疑問符を浮かべ尋ねる。
優秀社員は、眼鏡の位置を正しつつ、軽く笑みを浮かべると、
「勿論、勝手に作りましたが?会社説明としては、中々のものと自負していますが……不味かったですかね?」
当然のように、経歴詐称を告白するのだった。「ルリちゃん、何て恐ろしい子なの……」
思わず唸る結衣。
「ええ。相談の件も、ちょっと調べれば私が対応できると思うので大丈夫ですよ」
純真無垢な笑みを浮かべる瑠璃花ちゃん。
「…………」
複雑な感情が入り混じり、何も言葉を返す事が出来ない。
「あ、所長のプロフィール欄は空けておきましたので、そこはよろしくお願いしますね」
ご丁寧に仕事も与えてくれた、本当に優秀な瑠璃花ちゃん。
「……了解。これ終わったら、仕事取りに行って来ますかな」
半ばやけっぱちの口調で呟く。
ああ悲しきかな、を始まりに、一句出来そうだ。
教えてもらったパスを入力し、サイトの管理ページに入る。
こうして俺は、今日初めての仕事に取りかかった。
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