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「あ、矢野君おはよう」
教室に入ると、咲弥が目の前に現れた。
同じクラスだからな…
休まない限り顔を合わせるわけだ。
茶色の髪は相変わらずさらさら靡いて
長い睫を纏った黒い瞳は、わずかに潤んでいる。
スラリと立っている立ち姿に思わず息を呑む。
咲弥は今日も綺麗だ。
咲弥が視界に入るだけで、俺の胸は高鳴っていた。
苦しい。
昨日寝ずに考えて、やっと気がついた。
この苦しさも、兄貴に対する苛立ちも、
咲弥を見て高鳴る胸も、
俺が咲弥を想うからこそなんだと。
そして、
咲弥は兄貴のことが好きだと、どんなに頭で分かっていても、
抑えることのできない気持ちだということも。
そこまで考えて、
俺はさらに苦しくなる。
実らないと分かっている恋に
意味はあるのか?
どうしたら、この思いは報われるのか。
結局俺は、授業中ずっとそのことばかり考えていた。
考えは堂々巡りだ。
それはわかっている。
でも考えてしまう。
俺の中は、未だかつて経験したことのないような葛藤で、自分ではどうしようもなくなっていた。
そして、俺はそんな気持ちのまま屋上へ向かった。
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