新生活

14/14
前へ
/116ページ
次へ
屋上に着くと、既に楠さんは来ていた。 呼び出された時はよくわからなかったが、背が低くてとても女の子らしい。 巻き髪がふわふわしている。 咲弥に出会っていなければ、この子を好きになっただろうか…。 いや、そんな事考えるだけ無駄だ。 俺は楠さんに返事を告げることにした。 「わざわざごめん。………俺…」 「愛川さんの事が好きなんだよね?」 「………。は!?」 青天の霹靂とはこのことか。 突然の事で、俺は何が起こったのか分からなかった。 「なん…」 「わかるよ。ずっと見てたから。矢野君のこと…」 楠さんの瞳が真剣で、俺は何も言えなくなった。 か弱そうな、可愛らしい外見からは考えられない程の強い瞳。 「あ…ごめん。あたしいきなり…」 「あ、いや…」 「やっぱり矢野君て優しいね。」 そう言うと楠さんは、くすっと笑った。 (洒落じゃない) 「あたし、やっぱり矢野君のこと諦められないから」 そう笑顔で言うと、楠さんは屋上から出ていった。 ボー然と立ちすくむ俺。 女の子のパワーは凄まじい。 結局、俺は自分の気持ちを伝えることが出来なかった。 でも、よく考えたら 楠さんも俺と同じなんだ。 叶わないと分かっている恋を、俺達はしているんだ…。 俺と違って彼女は強かった。 俺に別に好きな人がいると分かっても 彼女の気持ちは一切ぶれず 彼女の瞳に曇りはなく、表情は晴れ晴れしていた。 そうか… 恋は、本来楽しいものなんだよな。 あれこれ考えても、この、人を好きな気持ちは変わらない。 そう思うと、 屋上から見える春の空が とても輝いて見えた。 楠さん、ありがとう。  
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加