それぞれの春

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この桜並木道は、私が好きな場所。 おばあちゃんから、私の名前はこの桜に因んでいるとよく聞かされていた。 この桜並木道の桜が、実際に日本に帰ってきて見る初めての桜だった。 こんなに綺麗だなんて、想像以上だった。 花が満開になってから葉が出るというのも、他の花とは違って気に入っている。 私はここに来るたび、桜を何十枚もスケッチブックに描いた。 ここではよくヨシ君に会う。ヨシ君は3つ年上のお兄さん。本名は『矢野芳之[ヤノヨシノ]』。 私の悩みを笑顔で聞いてくれた人。ヨシ君の包み込むような笑顔を見ていると、全部吐き出しちゃう私。 あの笑顔はずるいと思う。 きっと、これからもあの笑顔の虜になる人は山ほどいると思う。 緊張した高校生活初日。 中学の教訓で、穏やかにひっそりと高校生活を送ろうと思っていた矢先に、まさか、あんなに目立っている二人に話しかけられるなんて。 思わずきつい言葉が出てしまった私。 でも、周りを見たらあたしの容姿は普通に目立ってるし、今思うと怒り損だった。 峰倉君と矢野君。 高校に入って、あたしと普通に話してくれる二人。 中学の時はこんなことなかったから嬉しかった。 峰倉君は、明るくて、友達も多くて、いつもクラスの中心。もてそうなのに、いつも矢野君と一緒にいる。担任に指名されたクラス委員も二つ返事で快く引き受けちゃうし。こっちでは珍しいタイプなんじゃないかな。 矢野君は、さすがヨシ君の弟だなと思うほどの存在感。ルックスもいいし、みんなが近寄りがたいって言うの、なんか分かる気がする。でも話してみると、意外と天然で、優しいしびっくり。 前途多難な高校生活だと思ったけど、二人のおかげで楽しくなりそうな予感。 日本に帰ってきて良かった。  
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