第1章 恐るべし義母

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  まず手始めに、『排卵誘発剤』の使用を試みた。 毎日きっちり基礎体温を測り、誘発された排卵時期に合わせて子作りにチャレンジする。 やがて体温が上昇すると、私は神に祈った。 「どうかどうか、このまま下がらないでいて下さい!」 しかし願い空しく、いつしか体温は急降下。 今日にも来るであろう招かざる生理に備え、汚物入れにせっせとナイロン袋を被せるのだった。 こんな日の私は、気分最悪、この世の終わりみたいな顔で1日を過ごした。 誘発してまで排卵を起こし、タイミングを合わせてチャレンジしているのに、なんで妊娠しないんだろう。 誰とも話したくなかった。 考えただけで涙が出た。 パイの実の味はしょっぱい初恋の味(?)。 本当に辛かった。 そしていつしか1年が過ぎた頃、再び義母が襲来した。 「知り合いが有名な不妊治療の病院紹介してくれたけん、行きなさい。いつまでも同じ事しよってもいかんやろう」 ああ、この人はきっと、私の不妊を自分の悲劇に置き換えて、周囲に嘆いているのだろう。 私をいたわるのではなく、自分を憐れんでいるのだろう。 私のひねた考えかも知れない。 心底心配してくれてるのかも知れない。 でもやっぱり、今の私には、義母の言葉は防御するすべもないキツイ攻撃にしかとれなかった。 結局私はその病院に向かった。 以前から、不妊治療の名医がいる事で有名な所だったので、興味はあったのだ。 車で約2時間かかるが、その町には私の実家があったし、なによりそこで出産した友達が数名いる事が心強かった。 緊張しながら向かい合った先生は、近所の先生に輪をかけた無愛想で無口なおじさんだった。  
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