3279人が本棚に入れています
本棚に追加
/1140ページ
まず手始めに、『排卵誘発剤』の使用を試みた。
毎日きっちり基礎体温を測り、誘発された排卵時期に合わせて子作りにチャレンジする。
やがて体温が上昇すると、私は神に祈った。
「どうかどうか、このまま下がらないでいて下さい!」
しかし願い空しく、いつしか体温は急降下。
今日にも来るであろう招かざる生理に備え、汚物入れにせっせとナイロン袋を被せるのだった。
こんな日の私は、気分最悪、この世の終わりみたいな顔で1日を過ごした。
誘発してまで排卵を起こし、タイミングを合わせてチャレンジしているのに、なんで妊娠しないんだろう。
誰とも話したくなかった。
考えただけで涙が出た。
パイの実の味はしょっぱい初恋の味(?)。
本当に辛かった。
そしていつしか1年が過ぎた頃、再び義母が襲来した。
「知り合いが有名な不妊治療の病院紹介してくれたけん、行きなさい。いつまでも同じ事しよってもいかんやろう」
ああ、この人はきっと、私の不妊を自分の悲劇に置き換えて、周囲に嘆いているのだろう。
私をいたわるのではなく、自分を憐れんでいるのだろう。
私のひねた考えかも知れない。
心底心配してくれてるのかも知れない。
でもやっぱり、今の私には、義母の言葉は防御するすべもないキツイ攻撃にしかとれなかった。
結局私はその病院に向かった。
以前から、不妊治療の名医がいる事で有名な所だったので、興味はあったのだ。
車で約2時間かかるが、その町には私の実家があったし、なによりそこで出産した友達が数名いる事が心強かった。
緊張しながら向かい合った先生は、近所の先生に輪をかけた無愛想で無口なおじさんだった。
最初のコメントを投稿しよう!