あたりまえの毎日

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あの日、僕の母親が死んだんだ。 僕の目の前で…。 僕は向かってくる車から、自分だけが逃げたんだ。 母親が足が悪いのを知っていたのに、年を重ねた母親の耳が遠くなってきていた事も、目があまり良く見えなくなってきていた事も、僕は全部知っていたのに、それなのに僕は声さえかける事はしなかった。 即死だった。 そんな僕に君の優しさは痛すぎた。 走り去りながら涙が溢れた。 今日が雨で良かった。 この涙を分からなくしてくれるから。 今日が雨で良かった。 染み込んだ血の臭いを隠してくれるから。 今日が雨じゃなければ良かった。 そうでなければ君が僕に気付く事はなかったから。 君を傷付ける事はなかったから。 …君と出逢う事はなかったから。
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