ひとつ

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私の行く所に現れて前に立ち塞がって、何度も殺しの邪魔をしてきた。 私はヤツを殺そうとしたのに、ヤツは私を殺そうとはしなかった。私に傷の一本も付けることはなかった。武器を向けてくることすらなかった。 なんで? 他と違う。 私が刃物を向ければ、銃口を向ければ、皆恐怖に顔を歪めた。襲いかかってきた。……私を殺そうと、そして自らが生きようと。無我夢中に襲いかかってきたけど、皆、殺した。 私が人を殺しているのは、私が私であるうちに殺してくれる人を探しているから。 自分で私を殺そうとしても呪われた身体には無駄だった。何度試したか。 皆、私を殺せなくて、私に殺された。 しかし、今、どうだ。 右腕を失った私はヤツの目の前で跪いている。 『もうやめよう』 初めてヤツの声を聞いた。瞬間、私は激しく苛立った。 なんで、私は探しているだけ。 声自体は優しくて心地良いものだけれど、その心地良さよりも苛立ちが勝った。  
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