闇夜の獣

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「このやろぉぉ!」 その場に駆け付けると、有無を言わさず奴に一閃を喰らわせてやる。 周囲から歓声が揚がったのが分かる。 もっとも、そんな反応を気にしていては命が危うい。 「まだまだぁ!」 降り下ろされた毛むくじゃらの右腕を踏み付け、間合いに割り込む。 っ! 目の前に一本の槍が割り込んで来た。 その槍は見事に奴の左腕を貫いている。 もしこの槍が無ければ……ゾッとする。 一体誰が? と振り向くと……。 一人の女が槍の端を握り締めていた。 そう、先程の酒場で騒ぎを起こした女が槍をしっかりと握り、立っていた。 「危ないから……」 退いていろ!と言うつもりが、 「邪魔!」 はっと我に返り振り向くと影が大きくふりかぶっている。 「死にたいならここ以外で頼むよ!」 女は先程と全く変わらない悪態をつき、槍を巧く使いこなしている。 俺だって死ぬ訳にはいかない、俺の持つ銀の剣は退魔としては最適だ。 「手伝うさ!」 ……どれくらいの時が過ぎただろうか? 一瞬のようにも、果てなきようにも感じた。 目の前には力尽き倒れるウェアウルフ。 勝ったのだ。 安堵すると、女は俺から剣をもぎ取った。 「おい、何を!?」 鈍い音が聞こえ、女は血に濡れた。 ウェアウルフの首と胴体は永遠の別れを余儀なくされた。 「そういうことか」 しかし、犠牲も大きかった。 重傷の者、家を壊された者。 そして、何より…… 命を失ってしまった者…… また、その家族。友人。恋人。 宿に戻るまでの間中、そんな悲しい叫びが耳の中でこだましていた。
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