酒場にて

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「この酔っぱらいが!」 「ぜーんぜん、酔ってなんかなぃよぉ?」 ここは宿屋のロビー。 女は宿屋に戻るといきなりグラスを三杯も開けてしまったのだ、それも店で一番度の強い酒を……。 「呑まなきゃやってられないっての!」 とそれらしいことを言っていたが既に酔っていたから本当かは分からない。 「なんでそんなに呑むんだよ?」 こんな酷い呑み方をするからには、何か理由があるに違いない。 そう思い、尋ねたものの、 「バカタレ!」 とだけ言ってまたグラスを持ち上げたきり会話は成り立っていない。 そういえば、まだ聞いてなかったな。 「名前は?」 「うん?あ?あたし?」 やっと会話が成立した。 だけど他に誰がいるんだよ? 「ああ」 「アハハハハッ!」 またおかしくなった……。 うわっ! 「あーたしのなまえはぶろっーさむー」 彼女は思いきり顔を近付けて酒臭い息をばらまきながら名乗った。 「ブロ・サムー?」 「違うー!ブロッサム!」 あーなるほどね……。木の実……か。 「なーんてね!……知ってれば、教えられるけどさ……」 え?急にしめっぽく話しだした。 何か、理由があるのか? 「わたしの両親は……私が……小さい頃に戦争で……」 そうか……。 こいつも、似たような経験を? 気付けば握った拳に汗が滲んでいる。 「アハハハハッ!」 なんだぁ?またしても甲高い声を上げやがる。 「いまのはうそ」 「……殴るぞ?」 「ブロッサムって呼んでよ仕事で使う名前」 「仕事?」
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