act1 覚醒

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気がつくと僕は白い街にいた。 その場に腰をおろしてぼやっとしていたのだろうか?とにかく僕はそこにいた。 地面はちゃんとアスファルトの道路になっていて黒いが、それとは対照的に回りにある建物は白、白の連続で目がおかしくなりそうだ。 昔は何かの精神分析の為に白かなんかを用いたのを何となく思い出した。こうまで白に埋めつくされると巨大な病院の中にいるようにすら錯覚してしまう。 しかし周りに立ち並ぶ建造物は病院でもオフィスビルが並んだりしている訳でもなく、ただ白い巨大な直方体が道路に沿って並んでいるという感じだ。 ふと空を見上げる。空には太陽は無い。そして青い大気は一筋も見えない。真っ白でいてどこか暗さを感じさせる空…。 例えるならば、ちょうど曇り空のあまり暗くないような感じの空だ。 辺りには人はおろか、虫一匹もおらず、生き物と言えば僕だけだった。 無機質な白の空間には何の命も感じられない。 木や花や虫そしてもちろん人間さえも。耳が痛くなる程の静寂… 僕はただどこへ行くあても無く歩き出す。僕の足音だけが響く。 ここはどこ?なぜここに? 当たり前の疑問が浮かんでは消える。そして何度もそれを反芻していくと一つの疑問が浮かんだ。 だって僕はさっきまで―― ??? さっきまで…何をしてたんだ? 座り込んだまま頭を軽く抑え、目を閉じて何かを思い出そうとしても闇がただ目の前に広がるだけ。 かと言って目を開けてみても、例のごとく白い建物が再び眼前に現れるだけ。 生きていく上で当たり前の常識や言語に支障は無い。しかし何故だろう?その知識がどこから得たものか全く覚えがない。 人が生きていく上で積み上がっていく、言うなれば人の根幹とも言うべき生きた思い出がすっぽりと頭から抜け落ちて空虚な闇がある。そんな感じだ。 そんな中で知識しかない僕の頭の中にこのような状況を表す言葉がヒットした。 「記憶…喪失」 まさしくそう…。僕は自分自身の分かっている事は記憶を失っている事だ。 とにかく…とにかく辺りを見て病院か何かしらどころか人のいそうなところに行こう。 まずはここがどこだか探索する事から始めてみようか…。
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