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だけどこの五十年の間、わたしはお兄様の居所を知りながらも逢いに行く事ができなかった。
お兄様がわたしの元を去った理由とそれは同じ。
そしてもう一つ。
最後に別れたあの時、お兄様から向けられたあの瞳を思い浮かべると、どうしても足が立ちすくんでしまった。
逢いたい気持ちもあったけれど、怖くて前へ進めなかった。
優しく微笑んでくれたお兄様。
でも、お兄様のいる異世界の入口へ立つと、お兄様が向けるその顔は歪んでいき、凍てつくような瞳に変貌する。
それなら諦めようか。
あんな瞳を向けられて、いつまでも想う方がおかしいのだ。
気持ちとは裏腹に、天の目を盗んではお兄様のいる異世界の入口を見つめていた。
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