君の下まで

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「ありがとう。」 最初は呟くような小さな声。 「ありがとう。」 次はマイクを通して会場に響くくらい大きな声で。 すると会場は、先程とは反対にシーンと静まり。客席、ステージ上まで全ての目が薫に向く。 「本当話すつもりもなかったんだけど、ちゃんと話さないといけない気がした。少しだけ皆の時間をもらっても大丈夫ですか?」 薫の声の余韻が消えるか消えないかの間のあとに、客席から「大丈夫!」と言う声が響く。 客席からの声に少しホッとした笑顔を見せ、覚悟を決めるように客席をグルッと見て、息を吸い込む。 「この解散は、俺の我が儘です。」 ステージの袖を見ると誰も動いてない中で、慌ただしく走り始めるスーツの男が見えた。薫たちの移籍さきのプロダクションの人だろうか。 確かになんで自分の損にならない事なのに薫は話し始めたんだろ。 「俺はtagとして三人で歌って行く事に特に不満があった訳じゃない。マスコミに出てたように音楽性の違いなんかでもなんでもない。」 そこで、一旦区切り。また息を吸い込む。 「ただ不安にはなった。このまま三人で成功し続けて。tagって言う看板がなくなった時に、俺は俺として一人のシンガーとして一人でまたこんな大きな舞台に立てる実力があるのか。考え出したら不安でしょうがなかった。だから。」 薫は、少し声を大きくする。自分の決意がにげないように。真摯に自分の事を伝える為に。 「だから。俺は決めたんだ。一人でソロとして活動してみようって。実力をつけて溝渕薫として認めてもらいたいから。申し訳ありません。俺の我が儘です。本当に申し訳ありません。俺に挑戦する機会を下さい。」
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