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俯いている俺の肩に誰かがそっと触れる。顔をあげるとそこには恭子さんの姿があった。
俺の肩に手を置く恭子さんの顔は、優しく微笑んでいた。
俺は、涙を流してボロボロになった顔を見られるのが嫌で顔を伏せる。しかし、肩に置いてあったはずの恭子さんの手が俺の顔を捕らえて俯かせてはくれなかった。
普段見せない強引な行動に俺は驚いていると、微笑みが消えて表情に真剣さが帯びる。そして、俺のボロボロになったメイクをテキパキと直していく。
メイクを直し終わった恭子さんは、一度俺の顔の色んな所をチェックして、また微笑んだ。
「頑張って下さい。まだ泣くのはちょっと早いですよ」
恭子さんは俺の耳元でそう囁くと、俺の手を取って椅子から優しく立たせる。
俺は、恭子さんから本当のプロの姿を見た気がした。いつでも笑みを崩さず、俺達を万全な状態でステージに送り出してくれる。
俺は、恭子さんの方を向く
「ありがとう!」
俺は力一杯の感謝を込めて恭子さんに言う。俺の言葉を聞いた恭子さんは、照れ臭そうにハニカミながら、顔を左右にふる。
俺は、大股で部屋のドアに向かう。いつもステージに向かう時より知らず知らずの間に早く歩いてしまう。
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