第一章 危険な新作

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雨宮は誰もいない事を確認すると廊下に死体を運びながら出た。 見付かればアウトだ…雨宮は慎重になりながらも急ぎながら運んだ。開演直前は楽屋付近では人はバタバタしないのも、この時間に勝負を懸けた理由だった。 しかし引きずるだけじゃ中々進まない。雨宮は抱えるようにして大神を運んだ。 やっと着いた…雨宮は5分程度かけてホールの人気の無い階段へやって来た。ここならすぐには見つからないと踏んだのだ。この経験をした場所がこのホールだった事は雨宮にとっても好都合だった。なぜなら日本ではもっとも演奏回数の多い場所で、建物の構造をよく知っていたからだ。不幸中の幸いとは正にこの事だった。 そして一階分だけ大神を抱えて降りた後、カバンを放り投げ、階段に頭を下にして仰向けで寝かせ、階段で転けてしまった様に偽装した。 それから雨宮は大神の左腕を掴み、腕時計を操作し始めた、午後7時34分に合わせた。そして階段に叩きつけて壊した。 これでいいんだ、これで…雨宮はホッと肩を撫で下ろした。そして自身の腕時計に目をやると午後6時52分を指していたので、秋子が部屋に呼びに来る前に戻ろうと急いだ。
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