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夜、豪邸の一室からピアノの音が聞こえた。
部屋の中では初老の男が全身を揺らせながらピアノを弾いている。男は指から放たれる旋律を大きく、体全身で表現していた。
ピアノの横に若い女が立っていて男の演奏を聴いている。女はピアノから聴こえる一音一音に感動を覚え、体を震わせた。
部屋は明かりが点いておらず、窓から入る月の光のみが部屋を薄く照らしている。二人はお互いの顔もうっすらとしかわからない。しかしこの部屋に視覚は不必要であった。
男はピアノを弾き続ける。楽曲はクライマックスを迎え、男は体をさらに大きく揺らした。自らの音に酔いしれている。
女は感動のあまり涙をこぼした。とてつもない感動が体を包んでいた。
男は演奏を終えた。部屋には余韻が広がる。
「どうかな?短い曲だが悪くは無いだろう?」
男は女に尋ねる。女は声を震わせながら答える。
「完璧です。彼が弾けばどうなるんだろうと考えただけでゾッとします。」
「彼の演奏は聴かないんじゃ無かったのか?」
「はい。今回も聴くのはやめておきたいくらいです。」
女はまだ感動が醒めていない様だった。
「Une melodie donner la personemorte…この曲のタイトルだ。」
男は満足気であった。
「死者に捧げる旋律…」
女は小さく呟いた。
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