第一章 危険な新作

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       2 雨宮拓郎はリハーサルを終え、東京グレースホールの楽屋でくつろいでいた。 日本で演奏するのは二年ぶりだな…雨宮は感慨深く思った。 雨宮は主な活動拠点をヨーロッパとする世界的なピアニストだった。物心つく頃には既にピアノを弾き始め、十歳の時に「神童」と騒がれた事もある。その後も数々のコンクールを総なめにする等、順風満帆にピアニストとして成長を重ねてきた。 今回久々に日本に戻ってきたのには、2つの理由があった。1つは雨宮自身尊敬し、信頼されている世界的な作曲家・大神俊彦の新作の演奏の権利をもらえるという雨宮にとっても極めて喜ばしい事であった。もう1つは大神の娘で婚約者・楓との結婚の段取りを決める為である。 すごく愛しい…楓の写真を見て雨宮はほころんだ。 楓は小柄で女性らしく、笑顔はあどけない少女の様であった。彼女はピアニストであったが目が出ず、大神の教えで作曲家の卵として活動している。ピアノは残念だったが音楽の才能は溢れていて、そこも雨宮を惹き付ける魅力となっていた。
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