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大神の新作も雨宮にとっては気になるところだった。楓との交際が先で、大神には最初は良い印象を抱いてもらえなかった。しかし、大神との交流を出来るだけいい形で数年を過ごし、そしてピアニストとして結果を出す事で信頼される様になった。
例え同じ日本人であっても真の音楽家にしか曲は書かない変わり者で、これまでもコンサートで彼の曲を演奏する事はあったが、曲を書いてもらえるのは初めてで、名誉な事であった。
ようやくここまで来たんだ…雨宮はこれまでの努力を噛み締めた。
午後5時、開演まで2時間ほどある。少し休もう…雨宮がタバコに手をかけた。
その時、ドアを誰かがノックした。
「どうぞ」
雨宮は座ったまま招き入れた。スタッフだろうと考えていると、その訪問者は意外な人物だった。
「大神先生、どうしたんですか?」
正装をした大神がゆっくりと入ってきた。思わず雨宮はタバコを消し、立ち上がった。
「もちろん演奏を見に来たんだよ。君が日本に帰ってきてから何度も会っているが、君の演奏は久しぶりに聴くからね。あと、話があるんだよ。」
大神は不敵な笑顔を見せた。この男の不気味な部分でもあった。
雨宮はこの笑顔に不安を覚えた。
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