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何処からか小さな子供達の歌う声が聞こえる。
耳を澄まして聞き取れば其れは雛祭りの歌のようで、今日が桃の節句なのだと気付かされた。
とは言え興味がある訳でない曽良は気にとめる事なく歩みを進めていたが、隣の芭蕉は楽しげな様子で一緒に歌を口ずさんでいる。
全く、このジジイは…
呆れながら芭蕉を見るも其の視線に気付く様子はまるでなく、少し離れた場所にいる女の子らの方へと指を差す。
「ねぇねぇ曽良君、見て見て!あの女の子達、可愛いね~」
芭蕉の向けた指先へと視線を向ければ小さな女の子が二人、其処で遊んでいた。
この日の為に誂えて貰ったのだろう。少女達は色違いの淡い着物に身を纏っている。
「ふふ、あんなにはしゃいじゃって楽しそうだね」
はしゃいでるのはアンタもでしょうと心中思うも楽しげな芭蕉さんを見れば、そうですねと相槌を打った。
「ねぇ曽良く…」
「駄目です」
芭蕉の発する言葉を遮る拒絶の言葉。
「ちょ、私まだ何も言ってないよ?」
「言わなくても大体分かります」
芭蕉さんの事だ、大方自分も雛祭りをしたいとでも言い出すに決まっている。
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