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「何だよ、この弟子男は。そんなの言ってみなきゃ分かんな…男雛ッ!!」
拗ねた様子で僕を見る芭蕉さんにムカついて、右頬に張り手をくらわす。
「うぅ…いったい、酷いよ曽良君、私まだ何も言ってないのに…ただ雛祭りを楽しみたいって思っただけなのに…」
「いい歳したオッサンが雛祭りだなんて烏滸がましい。大体僕達にそんな暇はないでしょう。また野宿したいんですか」
ただでさえ芭蕉の所為で遅れをとっているのだ。ここで足を止めてしまえば次の町に到着する前に確実に夜になってしまうだろう。
芭蕉さんだけなら兎も角、自分まで巻き添えをくらうのだけはごめんだと内心思い、師を見遣れば何処か上の空。
「芭蕉さん聞いてますか?ただの飾りならその耳、もぎ取りますよ」
さらりと脅し文句を投げ掛けると芭蕉は両耳を庇う様に塞ぎブンブンと首を振る。
「…も、もがんといて!!」
「だったら早く…」
「あっ」
腕を組みながら苛々と言い掛ければ芭蕉は何かを見つけたようで突然背を向けて走っていく。
「…あのジジイ」
極限にまで達した苛立ちに、ブッシュウとこめかみの辺りの血管が千切れた音がした。
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