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初対面の印象はおとなしい少女。僕の苦手な「女性」そのもの。
それが間違いだってことはすぐにわかった。
彼女は世の中の女性たちのようにすぐに涙を武器にしたりはしない。
僕の皮肉にも、熟考し、しっかりとした返答を返してくる。
おとなしいだけではなく、譲れないところは何があっても譲らない。
「天使」の名を持つ少女、アンジェ。
その名のように穢れない魂と、真実に強さを持った少女。
長いようで短い試験の間で、彼女の涙を見たのは一度だけ。
ライバルで親友のレイチェルが失恋したとき、共に抱き合い、彼女のために泣いたとき。
自分のためではなく、他人のために、泣くことができる少女。
偶然その場面を見たときから、僕の中で何かが変わった。
「・・・選択肢は次の通りさ。女王になる、もしくは、二人で一緒に生きていく。僕は後者を選択した。君はどちらの未来を選択する?」
栗色の髪の少女が僕と同じ道を選んだ瞬間、少女は僕の生徒から可愛い恋人になった。
「こんにちはー。アンジェいるー?」
蜂蜜色の肌の少女が学芸館の一室を元気よく訪ねてきた。
アンジェが女王候補を降りたとき、女王になるのが決定した少女は、新宇宙を完成させるため、今でも育成に励んでいる。
必然的に安定度をあげるために、学芸館に通ってくる。
まだ教官の仕事もお役御免というわけにはいかないわけだ。
それにしても、僕の部屋にきて最初に呼ぶ名が部屋の主人ではないのは彼女の親友を横取りしてしまった僕へのささやかな皮肉だろうか。
「あら、レイチェルいらっしゃい」
当然のように僕の恋人は訪問者に返事を返す。
アンジェは一日の大半を僕の部屋ですごしている。
レイチェルもほとんど彼女に会いに来ているようなものだ。
「今日の用事は?」
尋ねた僕にレイチェルは満面の笑みを浮かべたかと思うと、
「今日はデートのお誘い。アンジェ借りていきますねー!」
言うが早いか、アンジェの腕を掴んで部屋から出ていってしまった。
止める暇もあればこそ。
後には呆然とした僕だけが取り残された。
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