戻れない時間

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しばらく泣き続けた直美が落ち着いたので、佐和子は温かいココアを入れた。 直美はそれを口に含み、痛かった心が少しだけ和らいだような気がした。 正人の心無い態度を一通り話した直美に、いつもはっきりしたことを言えない佐和子が、興奮したように言った。 「ムカつく」 直美は思わぬ言葉に涙を止めた。 「ムカつく。直美が泣いてるのに、何も出来ないことにもムカつくけど、正人さんの態度が何よりもムカつく」 「ちょっ、佐和子?落ち着いて」 佐和子は立ち上がり、直美の目を全く気にせず着替え始めた。 「佐和子?ちょっと?」 佐和子はジーンズに着替えて、直美の手をぐっと掴んだ。 「行くよ、早く!」 直美は佐和子に手を引かれるままに部屋を出た。 マンションを出て、大通りでタクシーを拾った。 佐和子は何も話さない。 タクシーの中には沈黙が続いた。 その沈黙を破ったのは、タクシーの運転手さんだった。 「今日は道が混んでるから、この辺で降りたほうが早いかもよ」 「わかりました。降ります」 佐和子の低い声が直美の耳に響いた。 「あっ……」 突然、大きな声を張り上げた佐和子。 直美はビクッとして、佐和子を見た。 「ごめん……お財布忘れちゃった……」 直美はちょっと間抜けな佐和子の苦笑いを見て、心からゲラゲラと笑った。 無事に運賃を支払い、タクシーを降りた。 「私、頭に血が上っちゃって」 「そうみたいだね」 このピリピリした雰囲気を吹き飛ばす、間の抜けた佐和子のドジぶりは、直美の荒れた心を少しだけ軽くした。
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