戻れない時間

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佐和子は正人の家の近くのコンビニに居た。 いつかの直美の真似をして、格好つけた発言をした割には、財布を忘れてなんとも格好悪い。 コンビニに居ても、直美のことは気になるし、無銭のくせに雑誌を見ている自分が申し訳なくて、落ち着かない。 佐和子は店員も気づかないくらい、小さく頭を下げながらコンビニを出た。 コンビニを出ても行く宛てもなく、結局その辺りをうろうろと歩き回るしかなかった。 正人の家の前を、何度も何度も行き来していると、バタンと閉まる扉の音が微かに聞こえた。 佐和子はすぐにその音の方に視線をやった。 そこには直美の姿があった。 佐和子はアパートの階段に駆け寄って行った。 直美が泣いていないか心配でその場で足踏みをして自分を落ち着かせようとした。 「あっ佐和子!」 階段の踊り場に明るい顔をした直美の姿が見えた。 佐和子の威勢のいい姿はすっかり消え、いざ直美を目の前にすると何を言っていいのかわからなくなっていた。 「待っててくれたんだね。ありがとう。話もあるし佐和子の家に行ってもいい?」 「うん、いいよ」 直美は正人とのことは何も語らずに大通りに向かって歩き出した。 その態度から、二人の関係が終わったことは容易に想像出来た。 だから佐和子は何も聞かなかった。
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