5753人が本棚に入れています
本棚に追加
堪えていた涙がボロボロと直美の頬を伝った。
「好きってひたすら尽くすことだと思ってた。でもね、それを望まない人にとってはただのお節介で迷惑なんだ」
佐和子は震える直美の声があまりにも弱々しくてぎゅうっと肩を抱いた。
「好きでいて欲しいから頑張ったよ。でも正人には重荷でしかなかったんだよ。あたしがこんなにもやってあげたんだからっていつも何処かで思ってた。これだけ完璧にやってれば正人は満足だろうってね。でもね、正人はそんな恋愛は望んでなかった」
「でも正人さんだって直美のこと好きだから一緒に居たんじゃ……好きな人に尽くされて嫌な人なんているの?」
直美は涙を拭いながら、佐和子を見つめた。
「始めは好きでいてくれたのかもしれないね。でも正人が言ってた。おまえといると息が詰まる。おまえが俺をいつも焦らせる。早く別れたくてしょうがなかったって。正人にはあたしの愛情表現は迷惑でしかなかったんだってやっとわかった」
佐和子は二人のすれ違う気持ちをやっと理解しそっと目を閉じた。
「正人はあたしに何度もサインを出してた。何度も何度も。わからないふりをして正人の気持ちを縛ってた。だからなのかな?あんな別れ方しか出来なかった」
プライドの高い直美が小さくなってしまったようで、佐和子は瞼にぎゅっと力を入れて涙を堪えた。
「ねぇ、佐和子。あたしは正人が大好きだった」
直美の悲痛な泣き声が、急に大きくなり、佐和子は直美の肩を抱く手に力を入れた。
何故か頭の中には、母親の凛とした姿が浮かんだ。
最初のコメントを投稿しよう!