私が本を好きになったわけ

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ゆっくりとした足どりで坂道を歩いていると、ポツポツと雨が降り始めた。 『雨…だね。』私は呟くように空に向かって言った。 祐司…。いつも、あなたとの思い出の中には優しい雨が降っていたね。 そして、あの日も雨だった。黒い喪服の人達、嗚咽混じりの泣き声が広い会場に響き、花々で飾られた祭壇が奇妙なほど目立っていた。その祭壇の上には満面の笑みをした祐司の写真が飾られていた。不思議だった。まるで実感が湧いてこない。祐司の通夜だというのに、もうこの笑顔を見ることが出来ないのだと言う現実を受け入れられないままにいた私は涙がひとつも出なかった。悲しみとか、そんな簡単な言葉で片付けられるようなものではなかったし、なんだか、こうやっている間にも、祐司があの笑顔を投げかけながら優しく声をかけてくれるような気がしていた。けれど、そんなことが起こるわけもなく降り止まない雨が…激しさを増していた。 そして、私のココロにも、冷たく降り注いていた。
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