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「う、う~ん……」
目を擦り、意識を揺り起こすと、辺りは一面、真っ白に囲まれていた。
無感味な机の角。飾られた淡い紅色。僅かに薬の香りの漂う花弁。白い手すりが付いたベッド。窓から差し込む朝日。
ここは? 僕は一体……。
まだ虚ろな僕の頭の中に、色々な思考が巡り廻る。とその時。
「葵君……?」
確かに聞こえた、遠慮がちに、かつ心配そうに、もう聞きなれたあの声が。
「瑞希? どうしたの? そんな顔して、今にも泣き出しそうだよ?」
僕の目の前には驚きと喜びが入り混じり、くしゃくしゃに顔面を歪めた瑞希の姿があった。ぽつり、つー、と伝い流れ落ちる涙。
「……葵君の……ばか」
涙を滲ませながら、たった一言、そう漏らす瑞希。その言葉に含まれる意味は安堵。
そんな瑞希の見慣れた赤いリボン姿を見て僕は全てを悟る。ああ、そうか僕は……。
だから全てを悟った上で僕は微笑んだ。
「ごめんなさい」
そう涙を溢しながら謝る瑞希に。
「もう、いいんだよ。全部終わったんだ。だからもう……」
その言葉で最後の枷が外れたのだろう、病室に小さく響く鳴咽と泣き声。
誰もそれを止める者は無かった。
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