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お父さん、お母さんに手引かれてやってきた近所の夏祭り。
皆、みんな楽しそうにはしゃぎ回っていた。もちろん僕もその一人。
「ほら葵、あんまり遠くに行っちゃ駄目だぞ?」
「分かってるよ~」
僕の手にはふわふわに膨らんだ綿菓子、それと飼い犬のトラの首に繋がった赤いリード。
僕の足元でワンワンと吠えるトラ。それに合わせるかのように僕も走りだす。
「あ、こら葵! ……たくっ、仕方ない奴だなあ」
「ふふ、いいじゃないの。葵が元気な事が何よりの宝物よ」
「まあ、それもそうか」
僕が振り返ると、納得したように、或いは半ば呆れ気味に肩をすくめるお父さんの姿が見えた。
僕は小さく「ごめんね、お父さん」と呟いて、また走り出そうとした。その時。
夜空一面に咲いた満開の大輪菊。打ち上がった蕾は空に昇って花、開く。地上を照らす色鮮やかな赤、黄、青。
周りの人達はみんなそれに釘付けに、もちろん僕もそう。
続いて響き渡った轟音、夏祭りを締めくくる『ドン!』と一発。その音のあまりの迫力に、つい僕は気を取られて、握っていた手を緩めてしまったのだ。
「――キャン!」
その声が聞こえた時にはもう、遅かった。
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