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「聞いてますか?」
真正面よりは、少しだけ斜めから声がした。
女性の声だ。
男は、少しだけ下がった眼鏡を慣れた手つきで直すと、女性に向き直る。
「聞いていたよ」
「何処から?」直ぐに女性が言った。
「何処から?そうだな。初めから」男は肩をすぼめて言う。
女性は、呆れた、というような大仰な仕草をしてから、「もういいです」と呟いて男の座るデスクの正面にあるソファに腰を落とした。
片手に珈琲、空いたもう一つの手に煙草を持った男は、次はどちらに口をつける“番”だったか忘れて眼を細める。
女性は、片方だけ器用に眉を上げてから「次は珈琲ですよ」と男に言った。
「僕が何を考えてるか解ったのかい?」男が直ぐに言った。
「あてずっぽうですよ」女性が答える。「灰がちょっと長かったから」
言われて男は煙草に視線を落とす。確かに灰が長くなっている。
恐らく、次は珈琲で間違いないようだ。
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