:月下美人:

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――営業時間を終え、幸せの賄いタイム。 嵐を乗り切ったラルは賄いをおいしく頂きながら、早くも三日後の試験とお城への憧れに心躍らせ、何が必要だろうか? 料理一式必要かな? そうだ全部持って行こう!! という感じでウキウキするラル。そんな挙動不審なラルを横目に見て料理長は薄らと心で呟く。 (……今回は賃金3回分タダ働きだな) 驚く事に全て料理長は知っていて何も言わない。野菜を切らずに自分の手をよく切って半ベソ掻いていた昔からお城で働くのが夢だと耳にタコが出来るぐらい聞かされていた料理長の下手くそな優しさなのだ。 身寄りも無く遊びたい年頃だろうに、こんな城下町の小さな料理屋で毎日ヘトヘトになるまで文句も言わずに元気一杯で働くラルへのボーナスみたいな感じで時々起る、こういう突拍子もない行動を料理長はせめて短い間だけでも夢を見せてやろうと許している。 どうぜしょんぼりしながら申し訳なさそうに帰って来る。 しょうがねぇなぁと料理長は夢を見続ける万年お花畑の頭の持ち主をチラッと一回見てから薄らと笑い賄いを口に運ぶのだった。
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