:月下美人:

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「おし、では一組目入ろうか?」 輝く笑顔を振りまいてレーガンは後ろに立っていた兵士に伝える。 場所は広場から移って室内訓練場。 次第に入り口の方からガチャガチャと鎧が擦れる音が響いてくる。その中に何故か普通の衣服を身に纏い、訓練で使うロングソードを訳も分からず持っているラルの浮きまくる姿もあった。 とそんな時、隣にいた小柄で顔全体が隠れる兜にフルプレートの鎧と完璧装備の騎士が心配そうにレーガンに聞いてきた。 「あの副団長……流石にあの少年にこれを受けさせるのは酷でないでしょうか?」 「ん? あぁラル・ウォーレンの事だな? いやー面接の時に流石に迷ったんだが……包丁と鍋蓋を武器と盾ですって言われた日には通すしかないだろう?……あと、妙に気に入った!」 キッパリとそう言って、ガハハハッと笑う副団長の言動にはため息しか出ない、あんなもの傍から見ていれば猛獣の群れの中に放り込まれた小動物にしか見えない。 「何というか見ていてハラハラするんですよ。鎧の貸し出しとかやればいいのに……」 と声からして若い小柄な騎士は心配そうに呟いた。 「まぁ死にはせんだろうよ!」 この能天気な上司には眩暈がしてくる。 模擬戦闘のサバイバル。これが皆がガッチリした鎧を身に纏う理由だ。 刃引きした武器でも、それは鉄の塊、そんなもの素で受けたら骨など造作もなく折れる、斬れなくても折れる。 刃物から鈍器になっただけなので正直、いつかは死者が出るんじゃないかと若い騎士はハラハラして気が落ち着かない。 そんな中のラルの登場は記念すべき一人目の死者の来訪です! おめでとうございます!に見えて仕方ないのである。
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