:月下美人:

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「いざとなったら止めますからね」 と腰に携えた剣の柄に手を触れながら横目で副団長を睨む心優しい若き騎士。 視線を感じ取った副団長は相変わらずガハハハと笑っていたのだが、急に真剣な顔つきでラルを見ながら呟いた。 「……その、いざという時は来ないと思うがな」 次の瞬間にはいつも通りのガハハハと笑う副団長に戻ってしまったので、若い騎士はその言葉の真意を聞くチャンスを逃してしまう、不審に思いつつも若い騎士は自分と副団長のやり取りを見て試験開始の合図を出しかねている兵士に出していいよ的な身振りをする。 はぁっと豪快に笑う副団長を見てまた溜息が出てしまった若い騎士は、できればこの様な暴力的な事をしない試験、というか副団長の男なら言葉ではなく拳で語り合え的なうっとおしい考えを保持する頭に何か落ちてきてその衝撃で性格が紳士的に成らないものだろうか、と割と真剣に悩んでいた。 「副団長が紳士的か………………うッ!?」 だが、副団長の紳士的な絵図らを想像した瞬間に鎧の下が一瞬で汗ばむという、体からの救難信号を受信すると、すぐさまその絵図らを記憶のごみ箱に放り投げ、頭から消し去る若き騎士だった。 「どうした? 身体震わせて……風邪か? ふむ、仕方ない……ほら、俺の分厚い胸板と上腕二頭筋でその悪寒を打ち消してやろ――」 「結構です!! 更に悪寒が増しましたよ!」 「がっはっはっは、冗談だ」 「目がマジでしたよ……」
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