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堅い堀の深い顔付きの男。
小柄ながらも精悍な顔付きの青年。
筋骨隆々の中年の男。
こういった者達が険しい顔立ちで、仁王立ちしている中で何故か、料理具一式を背中に担いだ、まだ幼さが残る少年が居た。
皆、違う意味で浮いている少年を変なものを見る様な目で見ている。
だが、そんな視線を全く気に止める様子は一切見せずに、少年はどこか座れる所はないかと、キョロキョロしながら歩き、とある一本の大木を発見した。
「あ~、重い重い。」
ふぅと溜め息を付き、荷物をドサッと地面に置くと疲れた様に腰を下ろして大木に背中を預け天を仰ぐ。
見えるのは、いつも下町から見ていた物感じていた物とは、格別に違った。
まず、空気が違う。下町とは違って濁った物を一切感じない。それに、花の匂いなのか分らないが、仄かに甘い匂いが少年の気持ちを落ち着かせる。
次にお城の細かい所まで全て見える。知っているはずなのに、どこか新鮮な感じが彼を包む。
「こんなにでかいんだ~」
呑気に見上げる。この国で一番偉い人が住む城。
一寸の狂いもなく左右対象に作られている。
印象的な物としては、正門を潜った先にある噴水。その中央に佇む『セイバー』の銅像。
そういえば、あの銅像はこの国を救った英雄の姿を模していると聞いた事があると、少年は何となく思い出していた。
しかし、でかいの一言では片付けられないだろう。
今、少年が居る場所は、城のほんの一部。一番小さい庭、騎士達が、訓練を為す所。なのだが、集まった者達が綺麗に、収まる程ゆとりがある。というか、まだまだ百人は余裕で入るだろう。
「迷いそう……」
少年は、本能的に思った。絶対迷うと。
すると、少年が身体を預けている大木から突然、声が聞こえた。
「なんだお前。もう受かった気でいるのか?」
少年は声に驚き、慌てて飛び起きて、大木をマジマジと見詰める。
「!?……き、木が喋った? へぇ~、お城の木って喋るんだ」
人の姿はなく、少年は目を輝かせながら、大木を触った。
喋る木なんて初めて見たよ、と思いながら。
「阿呆。木が喋るか、上だ上」
上? と、言われるがままに、顔を上げる。そこには、人が居た。
「あ~……」
少年は情けない様な、何か考えている様な微妙な声を漏らす。
「どこの物語だ? 木が話す訳――」
「木の妖精は初めて見るよ!」
木の妖精さんは、木の枝から滑り落下した。
盛大な音を立てて。
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