:月下美人:

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「大丈夫?」 少年は木の妖精を心配した。 駆け寄って起こそうと思って、ピタッとその手を止めた。 ……神聖な妖精さんに人間ごときが触っていいものか、腕を組んで少年は呆れる程、真剣に考えた。 「ば、馬鹿者、手を貸さないか」 木の妖精は、足に力が入らないのか、少年に手を差し出して来た。 木の影で顔が見えないが、少年は、そう言うならと手を掴み、グッと引いた。 「全く……」 偉い目にあったと言わんばかりの、重々しい溜め息と共に木の妖精は呟いた。 起き上がったと同時に、太陽の光に当てられて、木の妖精の素顔露になった。 まず少年の、第一の印象が綺麗な金色の髪。それに続いて、碧い瞳。全体的に見て、欠点がない程、整った顔立ち。いわゆる 「うわぁ、美少女の妖精さんだ。」 という訳なのだ。なのだが、 「!……私は男だ! そして、妖精ではない!」 「えぇ!? 妖精さんじゃないの?」 少年の驚いた所は、男という所ではなく、妖精じゃない所で、余りのショックに、少年は足元から崩れて去り、ドヨーンとした空気が広がった。 「どれだけ、愉快な頭なのだ? お前は……」 呆れた様に呟く、木の妖精もとい、美少女もとい、美少年。「……はぁ、分かったよ。君は人間だよ。耳尖んがってないし……」 「判断するポイントが違う!」 美少年は思わず、少年の頭をはたいた。 頭を擦りながら、起き上がる少年は、ブツブツと何かを言っているが、美少年は、気に止めず話しを切り出した。 「で?」 「ん?」 少年は意味が分らずキョトンとして首を傾げた。 「だから、お前は何故、その様に余裕なのだ? この試験を通る自身があるのか?」 美少年が、少年に話し掛けた理由が、余り緊張感のない雰囲気が気になったからだ。 他の者がピリピリとしている中で、呑気に腰を下ろし城を眺めている姿は、余裕で通ると感じ取れたのかもしれない。 少年はろくに考える事もせずに、直ぐに答えた。 それも笑顔で 「勿論」 甘く見ているのか? 美少年は、少し侮辱された気がして、周りの厳つい者達を指差した。 「お前は、他の連中に負ける気がしないと言いたいのだな?」 「負ける気?」 少年は、うん? と首を傾げて、料理で負ける気? 味って事かな? それとも腕の事? と少年は、美少年が指差す先を見て少し考え 「いや……まぁ、負ける気はしないけど」 と言ってしまった。
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