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名前を呼ばれた者が、設置された簡易テントへと入って行く。
ちなみに、このテントは、戦場などでの簡易拠点として活用される代物だったする。
そして、少年が居るこの場は、戦場さながらの殺気が溢れ、皆、真剣な引き締まった顔付きでテントへと、入って行く。
だが、一人。鎧ではなく、安物の麻で作られた衣服を身に着けた少年だけが
「鎧! 鎧! どこかに鎧は!」
違う緊張感をまき散らしていた。
一人だけ場違いの雰囲気を醸し出す。その少年は、辺りを見回して、鎧がないかと目を凝らす。
「ない」
神様の馬鹿野郎という感じで地面を叩く、少年。
怒る矛先が神様なぞ、大それた奴である。
というか、普通に考えて落ちている訳がない。神様を恨む前に、自分の緩過ぎる脳ミソを恨むべきだ。
「鎧余ってませんか?」
「はぁ!?」
めげる事なく少年は、名前を呼ばれるのを待つ、いかにも『料理人』ではなく『兵士』に見える、コワもての男達に、希望を託して話し掛けるが、当然軽くあしらわれ、酷い場合では、殴られそうになった。
「っう!? 世の中はこれ程までに冷たいのか……ッ!」
膝と手を着いて落ち込んだ。
鎧を貸して下さい。はい、どうぞ。
これが、少年の期待した流れだった。
世の中は甘くない事を身を持って味う、まだ十代半ばの少年。
下町なら、知り合いに頼んで、何とかなったかもしれないが、戻っている時間はない。
その時だ。
「ニアヴァトーレ・L・ハルトマン」
『その』名前が呼ばれた瞬間、空気が変わった。
読み上げる兵士も若干緊張しているようだ。
「?」
落ち込む少年は、周りがざわついているのに気付いた。
「ハルトマンって、貴族のハルトマン一族か? 」
「違うだろ。タダの同名だろ。」
「いやぁ、違うなぁ。鎧の肩にあるサーベルに薔薇が絡まる紋章は間違いない。」
そんな声を聞き、そんな偉い人が、料理人の試験を? と、少年はようやく疑問を持ち始めたが、どんな人かまず見て見ようと、半ば野次馬根性むき出しで顔を上げ姿を確認する。
皆の目線の先に注目し、一人の小柄ながら者が目に入った。
まず、最初に目が行ったのは、金色に輝く髪だ……ん? ここまで来て少年は思った。
(さっきもこんな事なかったけ?)
ふ、とそう思い、全体を確認し
「木の妖精さん!」
思わず大きな声を上げる。
「まだ引っ張るのか! お前は!」
さっき美少年も負けずに叫んだ。
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