:月下美人:

6/19

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
名前を呼ばれた者が、設置された簡易テントへと入って行く。 ちなみに、このテントは、戦場などでの簡易拠点として活用される代物だったする。 そして、少年が居るこの場は、戦場さながらの殺気が溢れ、皆、真剣な引き締まった顔付きでテントへと、入って行く。 だが、一人。鎧ではなく、安物の麻で作られた衣服を身に着けた少年だけが 「鎧! 鎧! どこかに鎧は!」 違う緊張感をまき散らしていた。 一人だけ場違いの雰囲気を醸し出す。その少年は、辺りを見回して、鎧がないかと目を凝らす。 「ない」 神様の馬鹿野郎という感じで地面を叩く、少年。 怒る矛先が神様なぞ、大それた奴である。 というか、普通に考えて落ちている訳がない。神様を恨む前に、自分の緩過ぎる脳ミソを恨むべきだ。 「鎧余ってませんか?」 「はぁ!?」 めげる事なく少年は、名前を呼ばれるのを待つ、いかにも『料理人』ではなく『兵士』に見える、コワもての男達に、希望を託して話し掛けるが、当然軽くあしらわれ、酷い場合では、殴られそうになった。 「っう!? 世の中はこれ程までに冷たいのか……ッ!」 膝と手を着いて落ち込んだ。 鎧を貸して下さい。はい、どうぞ。 これが、少年の期待した流れだった。 世の中は甘くない事を身を持って味う、まだ十代半ばの少年。 下町なら、知り合いに頼んで、何とかなったかもしれないが、戻っている時間はない。 その時だ。 「ニアヴァトーレ・L・ハルトマン」 『その』名前が呼ばれた瞬間、空気が変わった。 読み上げる兵士も若干緊張しているようだ。 「?」 落ち込む少年は、周りがざわついているのに気付いた。 「ハルトマンって、貴族のハルトマン一族か? 」 「違うだろ。タダの同名だろ。」 「いやぁ、違うなぁ。鎧の肩にあるサーベルに薔薇が絡まる紋章は間違いない。」 そんな声を聞き、そんな偉い人が、料理人の試験を? と、少年はようやく疑問を持ち始めたが、どんな人かまず見て見ようと、半ば野次馬根性むき出しで顔を上げ姿を確認する。 皆の目線の先に注目し、一人の小柄ながら者が目に入った。 まず、最初に目が行ったのは、金色に輝く髪だ……ん? ここまで来て少年は思った。 (さっきもこんな事なかったけ?) ふ、とそう思い、全体を確認し 「木の妖精さん!」 思わず大きな声を上げる。 「まだ引っ張るのか! お前は!」 さっき美少年も負けずに叫んだ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加