6人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
嘘をつくにも、もっとマシな嘘があっただろう。
代々家に伝わる物が、鍋。あるのかもしれないが、それを防具と言うのは、無理がある。
そんな嘘は、考える暇なく、ばれてしまう。というか、完全にばれている。
それでも、ラルは持ち主が鍋の事を兜と言い続ける限り、それは鍋ではなく、兜なのである。と、呆れる屁理屈を咄嗟に思い付いた。
だが実際、端から見れば、それはただの
『お金がない、可哀相な子供』
と見られている訳で
可哀相な目で見られる訳で
「分かったから……外せ、それを。重いだろ」
案の定、同情される訳で
(え、何? この泣きたくなる様な感じ」
泣きたくなる訳で
「……はい」
最終的に少年の心に大きな傷を付ける結果になった。
鍋を外し、表情を暗くするラル。はぁ、と聞こえないくらい、小さな溜め息を吐く、その姿は、まるで諦めた様に見えなくもない。
「ふむ。何か勘違いしている様だが、鎧着用は本人の自由だ。それで合否を判断する事はない。」
「!」
その言葉は、ラルにとっての助け船となり、数秒もしない内に表情に笑顔が戻った。
それを見た面接官は、楽しむ様に口をニヤつかせ
「まぁ、だが、着けて来た方が印象に残るのは事実だがな。」
わざとそう、呟いた。
「!?」
また、ラルの表情がコロッと代る。
クククッと笑いを堪えるのに必死な面接官は、実際インパクトは今までの奴の中で一番だったが、と思ったりしている。
騎士団の面接に鍋を被って来る者などラルが初めてだろう。
なので、印象的には断トツで一番なのである。
それに面接官は、自分の言葉で表情がコロコロ代る少年が面白くて仕方なかった。
面白いものを見たと、ご満悦の面接官。
久しぶりにいい気分になった面接官は、聞いた。
「なら、武器は包丁で盾は鍋蓋か?」
勿論冗談である。冗談であったのだが
「何故それを!」
ラルは腰から包丁と鍋蓋をスッと驚いた様に取り出した。
面接官の冗談は見事に的中してまい、気まずい雰囲気がテント内を埋め尽くす。
「?」
その空気と唖然とした面接官を見て首を傾げるラル。
何かまずい事をしただろうか。ラルは、兜だけでは、いけない気がしたので持参した包丁と鍋蓋を装備。戦うコックさんと化していた。
「!」
ラルは気付いた。今、自分がこれを調理具だと認めれば全てが終わりだ! そして、表情を正したラルは
「武器と盾です」
と平静と答えた。
最初のコメントを投稿しよう!