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「死ぬなら、どうぞ。」
初夏。爽やかな日差しのなか、フェンスの向こうの男に言った。
「…。」
男はチラリとこちらを見、軽く溜息をつくと、また、前方へ視線をやった。
「止めねぇのかよ。」
空に投げられた、呆れた様子の言葉。
「えぇ。貴方が何時死のうと、それは貴方の勝手ですから。」
ゆっくり男が居る方へ近づき、フェンスに背を向けて座る。
彼等は今、フェンスを跨いで背中合わせだ。
「…。」
また短く、男は溜息をつくと、長身を生かして軽々フェンスを乗り越える。
「止めた。」
詰まらなさそうに、胸ポケットから煙草を取り出して言った。
「…、そう言うと思いましたよ。」
さも満足そうに笑う座り込んだ男を見て、
あぁ、俺は抜け出せそうにないな、
と男は思った。
座り込んだ男の腕を引く。
抱き寄せる。
キスする。
ある日の屋上。
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