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そんな、性格から趣味から、文字通り月とスッポンな二人が、何故如何にして夫婦になったのかは、謎だ。
が、それは兎も角、おかんも今は未亡人。亭主を無事、彼岸へ送り出したわけだから、還暦過ぎて青い山脈リターンをやったとて、なんの文句がつけられようか。
に、しても……だ。
日曜の初デートはワンピースにしようか、スーツにしようか、この際新しい口紅買っちゃおうかしら、などと浮かれ騒いでいる姿は、見た目はさて置き、心はしっかり乙女に逆行している。
無邪気というか、まあなんとかぎりぎり可愛い、と、いえなくもない。
「……でもさ」
「んっ?」
「おめでたいっちゃ、おめでたいよな」
「まぁねい」
謙兄の言うように、おかんの頭の中は、新しいカレシで一杯なのだ。
手前の息子達のことなど、とっくに眼中から消し飛ばしてくれているのは明らかである。
僕らは、彼女の血と肉を頂戴した、正真正銘間違いなく彼女の子供だが、既に一人前の大人なのだ。
手前の群を作るには至ってはいないが、いろんな意味で成人式も済ませている。
従って、夢見る逆行乙女を現実に引き戻すほど無粋では、ない。
「息子の義務としては、これは後方支援すべきなんじゃないだろうか」
「……そおねい」
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