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僕らは、沈み始めたお天道様に背中を押されるようにして、駅前商店街へ向かった。
帰路。冷え過ぎて泡も立たない缶ビールを呑みながら、謙兄がボソッと言った。
「……女ってさ」
「あ?」
「生まれた直後から死ぬまで、女なのな」
謙兄は、いわゆる恥掻きっ子でドライな僕と違い、大人しくて優しい真面目人間だ。
若い時分の母親を知っているだけに、今になって母親の女の顔を見せられたことは、それなりに思うものがあるのだろう……。
「あの人見てるとさ。つくづく頷いちゃうな」
「死ぬまで、じゃないでしょ」
「そうかなぁ」
ふと。
通りに面した一軒の前で、僕らは揃って足を止めた。
敷地内に植えられた桜の枝が、板塀を越えて腕を伸ばしてい。その枝先に、ぽつりぽつりと気の早い幾つかが花をつけているのが見えた。
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