秋色影絵

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  検査室に行く道すがら、僕はタカシ先生から少しだけ、彼女のことを教えて貰った。   じゅんこちゃんは、全身の筋肉が弱くなっていく病気なのだよ、と、先生は言った。 そして、とくに下半身の筋肉が極端に細いので、トレーニングに来ているのだ、と。 脚の補助器具がないと立っていられないことや、他にも幾つかの機能麻痺があって、舌が上手く動かないことも……。   「だけどね。じゅんこちゃん、センターで一番の頑張り屋さんなんだよ」   「……先生」   「なにかな」   「じゅんこちゃんは、リハビリしたら歩けるようになる?」   機能改善のトレーニングや回復のリハビリがキツいことは、僕も知ってる。 以前やった捻挫でさえ、元通りの感覚を取り戻すには、ギプスやテーピングで固定されていた時間の何倍もかかったから。 そうした一時的な怪我ではなく、体質や神経系に原因がある場合のリハビリやトレーニングは、更にしんどい。 大人だって、トレーナーの先生や見舞いの人相手に八つ当たりしたり、ぼろぼろ泣きながらやってる人とか……そんなの、センターじゃあ珍しくない光景だったし。 だけど、そうしなきゃあ、いつまで経ってもベッドにサヨナラ出来ない。   「先生」 「うん?」 「……歩けるよね?」 「神様はね、ちゃあんと見てらっしゃるよ」   タカシ先生の答えは、イエスでもノーでも、なかった。      
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